小沼純一さん
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和を「知る、聴く、遊ぶ」
——和の魅力発見シリーズの「Traditional+(トラディショナルプラス)」には、企画立案から関わったのですか。
主催者から和に親しむイベントを3つやりたいという話がありました。2つは音楽系、1つは文学系でということで、文学からは多くの人が一つの場所を共有し、参加できることからTraditional+【vol.3】では百人一首を選びました。近年では、漫画やアニメが人気でしたので。百人一首は家庭で遊んでいるが、声を出して詠みますよね? でもそれは正しいのだろうか? ランダムに並べているのはどうなのか? と、さまざまな疑問があったわけです。私自身、競技かるた大会の様子などで多少は知っていても、宮中の本格的な詠み方は知らないし、実際に聞いたことはありませんでした。だったら、実際にそれを実践してはどうかと思ったことから今回のイベントになりました。また、百人一首の札を「取る」だけではなく、声に出して「詠む」ことを、身体を通して体験してほしいと思っていたのです。
——名人の競技かるたは迫力がありました。
それまで実際に、競技かるたを間近で見たことはなかったので、(札を)あんなに音を立てて取ったり、スピードや緊迫感があるのかと思いましたね。相手を威嚇したり、流れを止めるようなしぐさをしたり、意外なほど動きがあることがわかりました。一方で、競技かるたの競技者は、歌の意味にはあまり興味がないことがわかったり…。漫画では、歌の内容に興味がある人物が登場して、競技ばかりではダメだと、内容を理解しようという場面が出てきますが。
——「Traditional+【vol.3】『百人一首』に遊ぶ」は、とても人気の公演でした。
チケットはさっと早めに売れてしまいました。競技かるたが中心だったので、そちらに興味のある人が多かったのではないでしょうか。そして第二部の披講と呼ばれる和歌の歌詠みも、目の前で実演されることは珍しかったと思います。百人一首を声に出して歌うことは、まずなかったでしょうから。特に、歌詠みを講師の青柳先生が狩衣を着てやられたのが面白かったです。
——その他の2公演については。
「Traditional+【vol.1】現代に生きる日本の伝統楽器」では、笙・箏・琵琶の伝統楽器が共演できる新曲を書いてもらって、初演しました。そもそも起源の違う楽器ですから、発達がまるで違います。それが一緒に演奏することはまずないものを、敢えて一緒にやってみました。再演はなかなか難しいかもしれませんね。鳥養潮さんというニューヨーク在住の作曲家に委嘱しました。
——「Traditional+【vol.2】LIVE アニメーションと浪曲」では、アニメーション「頭山」を浪曲のライブ演奏で楽しめました。
「頭山」は、実際のアニメーションでも浪曲家の国本武春さんが語りを付けています。でも、ライブで音を重ねると、当然、映画とは違ってきます。節回しであったり、呼吸であったり、生ならではの語りでした。そのときも、国本さんは浪曲が始まる前に、観客に浪曲の掛け声を指導しました。本物の芸能を体験したことがない人には大変面白く感じてもらえたようでした。
現代と繋がる伝統芸能
——そもそもの企画意図はどういったものだったのでしょうか。
今回の3公演は、伝統芸能だけを見せるというのではなく、伝統的なものと現代をどう繋げていくか、を考えました。そこから伝統芸能の新しい魅力を引き出したかったのです。例えば、浪曲がアニメという新しいメディアとくっつくことで、「伝統的なものも面白い」と知ってもらうきっかけになればと考えました。いくら良いものでも難しい、チケットが高い、だから敷居が高い、では近づけません。かといって、やさしいものだけやっていればいいのか、といったらそうではなくて、別の切り口を提案することで、いろいろな人に興味をもってもらえればと考えました。
——ご自身の伝統芸能に興味をもったきっかけは?
三世代が一緒に住む家でしたし、伝統的なものはごく普通に、メディアなどを通して、ほかの西洋的なものと併存していました。西洋型の新しい音楽を知っていくなかで、武満徹の《ノヴェンバー・ステップス》や、やはり武満徹の雅楽《秋庭歌》などを知り、現代における和楽器に感心を持ったり、海外に滞在するなかで、伝統的なものを自らがあまり知らないということを気づかされたり、新たなきっかけになったかとは思います。
——今後の課題があるとしたら、どんなことでしょうか。
小沼「公演会場で、その公演に関連する資料なり、書籍、映像資料を手に取れられるようにしたいですね。面白いと感じたとき、さらに興味を深めることができるようにしたい。ネット社会で言うなら、リンクを張るような意味合いです」
——本日は、ありがとうございました。