インタビュー

和の魅力発見シリーズTraditional +(トラディショナルプラス)
【vol.4】現代に生きる日本の伝統楽器→ 詳細へ

12月8日(日)、スパイラルホールにて開催される「和の魅力発見シリーズTraditional +(トラディショナルプラス)【vol.4】現代に生きる日本の伝統楽器」。今回は、第2部の「ソロ尺八、尺八群、電子音のための委嘱新作」(仮)を作曲される一ノ瀬響さん、尺八演奏家の藤原道山さんのお二人にお話をうかがいました。

(左:一ノ瀬さん、右:藤原さん)
―― 一ノ瀬響さんと藤原道山さんは、学生時代の同級生だそうですね。卒業後も一緒にライブ活動なさっているそうですが。
一ノ瀬 藤原さんと一緒にやるのは年に一度あるかないかですね。どちらかというとぼくは作曲の仕事が多く、今回は出演しますが半分オペレーションとして登場することになるので、メインは藤原さんです。
今回の委嘱新作では、PAを入れて音が増幅したり、変調したり、という感じになります。音はマルチチャンネル、サラウンドを前提に設計しますが、尺八の音を現代の耳で解釈していく作品を書きたいと思っています。
―― 二人で一つの音を出していく、ということですね。
一ノ瀬 藤原さんとはデビューのころから仕事をご一緒していますが、アルバムやCDのレコーディング作品のときは、楽曲の完成度が重視されます。でも今回のような機会では、ちょっと実験的な試み、その場でしか起きえない音楽にできたら面白いですね。
ぼくが現代音楽の作品をつくるときは、いろんな要素が入ってきますが、渾然一体となりトータルとしてはひとつの音楽や音像ができあがっていくように努めています。もう一つは、作るときに音色のことをよく考えます。今回であれば尺八の音色の本質はどこにあるのかを追求したいです。
尺八は、やはり「息」や「呼吸」ということだと思います。今回の新曲のテーマとも言えますが、人間にとって根源的な行為である「息をする」ということを、「尺八を演奏する」ということに重ねて曲にしたいですね。
普通の「呼吸」と尺八に吹き込む強弱をつけた「息」、それが音楽になるわけですが、その二つの「息」の距離、その違いのどこからが音楽的な「息」になっていくのか、などを探っていきたいと思っています。
藤原 尺八の特性は、「息」が前提にあるなかで、「変化」が特徴だと思います。これだけ音色の変化がはっきりしている楽器はないかもしれないですね。自分の中にある意識が重要で、自分の中に出したい音のイメージがなければ、音を創りだすことができない「声」だとも言えます。自分の声の延長線上にある感じです。またそれぞれの人が持っている「声」が面白い。4月から大学で教えていますが、学生の音から新たな刺激を受けています。そして様々なシチュエーションの中で、どんな音を創りだせるかも興味深いです。今回会場となるスパイラルホールの空間ではどんな音を発していくか、体感できるかも楽しみです。
1998年に一ノ瀬さんとフジタヴァンテの円形劇場で共演したときには、スピーカーを4チャンネル使って音を順にぐるぐる回し、音が回っていく中で、ぼくはその逆回転で回りながら演奏しました。普通は会場の前から音がくるのに対して、四方向から音がくるというのは、観客にとって面白い体験だったと思います。
一ノ瀬 ぼくの場合は楽器のない、音だけのインスタレーションのような作品があります。今度、彫刻のためのサウンドを作曲しますが、それも誰もいない中で電子音だけが鳴っている、という作品です。空間の中で音がどう響くか、これまでの活動を通じて様々な実験をしてきました。
―― 音楽ホールなどは、ホール自体も共鳴して響きを作るといわれますが。
一ノ瀬 今回の新曲では、ホールの残響みたいなものを自分たちで創ってしまおう、という形になるのだと思います。スパイラルホールは、多目的な空間で、音楽ホールのような残響があるわけではなく、フラットで色づけのない空間なので好都合であるともいえますね。藤原さんが歩くかどうかは…考え中です。(笑)
―― どういう編成の曲になるのでしょうか。
一ノ瀬 仮のタイトルですが、「ソロ尺八、尺八群、電子音のための委嘱新作」となっています。アンサンブルは藝大の学生たちが演奏してくださることになっています。ですから、尺八のソロの音、尺八の集団の音、そしてそれを包む電子音と三層の形を考えています。
藤原 昔、16本の尺八のための作品を創っていただいたこともありました。通常の倍近くある尺八もあるのですが、12種類あるうちの10本ぐらい使ったと思います。かき集めてくるのが大変でした(笑)。
一ノ瀬 今回も長い尺八を入れてみようか思案中で、それと藤原さんの尺八が呼応するという形にしようか考えています。電子音を使うということは、現代においては特段変わったことではないですし、豊かな音像を作るために使えるものは使おうと思っています。
―― 電子音の元になる音はどう採取するのですか。
一ノ瀬 実際に録音した楽器の音や声から作っていくことが多いです。例えば、ピアノ音を録音して、鍵盤を叩いた瞬間のアタック(音の出だし)の部分をカットし、そのあとの伸びている個所を特殊な方法で電子的に拡大したり、変調していくような形で創っていくことが多いですね。今度のライブでは、それをリアルタイムで創っていくことができればと思っています。
藤原 その場でしか聞けない音が生まれてくるのを、ぼくも期待しています。
一ノ瀬 譜面は一応書きますが、即興的な要素をたくさん含むようなグラフィックスコアを創ろうと思っています。
―― 東京藝術大学では、作曲科と邦楽科で接点はなかったと思うのですが、どういうきっかけで知り合ったのですか。
一ノ瀬 副科で楽器を専攻する学生たちが集まった、オーケストラがきっかけですね。藤原さんはフルートでした。藤原さんは、廣瀬量平先生という作曲家の先生の「尺八とオーケストラのためのコンチェルト」というのを学園祭で企画して、演奏者、指揮者を集めて、自身が尺八のソロを演奏するなんてこともしていましたね。
藤原 その時、一ノ瀬さんにはピアノを弾いてもらいました。演奏したい!という強い思いが実現につながりました。廣瀬先生には、楽譜もお借りし、大変親身になって協力していただきました。ぼくは新しい音を追求したくて、作曲科の授業をのぞきに行くこともありました。
一ノ瀬 作曲科の人は、よくわからない現代曲を創っているイメージを持たれがちですが、それを面白がってくれるタイプの人と、いやあ、ちょっと…というタイプの人がいて、藤原さんは前者の方でしたね。邦楽を初めて作曲して尺八の曲を書いた時、それを演奏してくれたのが藤原さんだったというのは、ぼくにとって自慢できることです。
今回は、「Traditional+」を企画されている小沼純一先生が「藤原さんの尺八をとりあげたいのだけど、ついては君の電子音と一緒にやってほしい」と言ってくださり実現しました。
藤原 小沼先生は、ぼくの初めてのCDで、一ノ瀬さん編曲のライナーノーツを書いてくださったというご縁もあります。
一ノ瀬 公演では照明や映像による相乗効果を狙うのではなく、あくまで音楽作品として音楽に集中して欲しいと思っています。客席は、ステージを半円形に取り囲む形なので、聴くというより体感するという感じになると思います。
藤原 このステージで音を出したときに、どのように聴こえるのか、自分でも聴いてみたいですね。いつも自分の音を客席で聴けないのがすごく残念です。一度お客さんになって、自分自身のライブの音を感じてみたいと思っているくらいです。
一ノ瀬 音楽は、リラックスするためにだけに聴くものではないと思っています。音楽の効能として、ストレス解消、リラクゼーションと言われることが多いですが、広い意味ではそうかもしれませんが、実際は音楽を聴いているときに緊張したり、集中したり、交感神経が優位になるようなこともあると思います。そういうことも音楽の一部だと思うので、最近は「癒しはしません」などと言ったりもします(笑)。聴き手の感覚としては様々だと思いますが、作り手が最初から癒すということだけを考えるというのは違うと思っています。その場で集中して聴くという体験ができるものを作りたいと思っています。
藤原 音楽は、想像力によって喚起されるものがあるでしょう。自分の中で音に刺激され、風景が浮かんでくる人もいれば、物語が浮かぶ人もある。それは聴き手に自由に感じてほしい。今回の公演でも、ぼくたちが発したものが観客の思考を刺激して、それを僕たちが受け取って今生まれたばかりの新しいサウンドを作る場にしたいですね。
―― ますます多彩に展開されるお二人ですが、この後、どんなことを計画していらっしゃいますか。
一ノ瀬 ぼくの最初のCD「よろこびの機械」のパッケージを新しくしてリリースする予定です。ニュートラックを付けて、マスタリングもやり直したリニューアルCDです。また、自転車に乗って十日町を走る「ツールド妻有」という自転車イベントのドキュメンタリーの作品に音楽をつける仕事も楽しみです。
藤原 11月にはチェロの古川展生さん、ピアノの妹尾武さんと組んだユニット、「古武道」のツアーが始まります。8月に新しいアルバム「OTOTABI-音旅-」をリリースした記念ツアーです。また、マリンバとの共演や、三島由紀夫原作「春の雪」の朗読劇、オーケストラとの協奏曲も予定しています。自分は何でも興味があるので、面白いことをひとつずつ実現できたらと思っています。

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